僕たちの職業は、国内のクライアント(国、自治体)からは建設コンサルタントと呼ばれるが、海外のクライアント(先進各国の国際協力機関、開発系銀行、国際機関etc、ドナーとも呼ばれる)からは「開発コンサルタント」と呼ばれている。それは水資源、農業、交通、都市開発、電力、通信といったインフラ整備に係わるセクターから、医療・保健、教育、ガバナンス等のソフト分野も多い。
ネパールは、行き先を大いに迷っていた僕がこの道(開発コンサルタントの道)を歩むことを決めることになった地であり、それは1985年のことであり、実はそれ以来ネパールには行っていない。また行きたい、きっとまた行けるはずと思いながら、もう40年近く経ってしまった。
ネパールは、実は僕にとって、「開発しなくても良いのでは?」と思わせた国でもあった。このままの方が絶対に素敵だし、人々もとても幸せそうだと感じた国だった。あれから約40年、きっとかなり多くのドナーの支援が入り、開発は進んでいると思う。しかし僕はそれを想像したくない。それ(開発)で食っている僕としては、不適切な発言だとは思うが、僕は其処此処で神々が宿るあの歴史的なカトマンズに近代的な道路や建物ができるのを想像したくない。
現在、国連が国家として承認している国は196カ国あるが、そのうちの7割に当たる150カ国が開発途上国に分類されている。僕たちに報酬を支払ってくれるのはドナーだが、僕はこの150カ国の国々こそ僕の本当のクライアントだと思っている。そのクライアントさんに、心の中で、「本当に開発したいと思ってますか?」と問うたこと(国)はしばしばある。開発途上国の政府は、どこの国も大きな声で世界に対して「開発が必要だ」と訴え、それが正義だと自信を持っている。ただ、その国の国民は、本当はどう思っているだろうか。実は国民はそうは思っていない・・・、と結べれば美しいのだが現実は違う、と思う。
「思う」というのは、僕がそんなことをその国の住民に直接聞いたわけではないから。でも、実感としては、例えば日本の支援が入り、道路が、橋が、水道施設が建設されるとなるとその地域は大いに湧き上がる。それを僕は見続けてきた。しかしいつか、「開発される前の方が良かったんじゃないか」と思う人も少しずつ出てくると思う。日本を始め、今の先進国の人々のように。