奇妙な形の野菜たち

Literature, photograph, music, guitar, and alcohol (sake, whiskey). What I love and never stop

砂漠を渡って

世界中の乾燥地を渡ってきた。一番長かったのは、エジプトのシナイ半島だった。もちろん連続してではないが、8年間に渡りシナイ半島の地下水調査の仕事に携わった。次に長かったのは、チリのアタカマ砂漠と、今回お話しするナミビアカラハリ砂漠だったかもしれない。

大人になってからの娘が、子供の頃の私はパパが砂漠で仕事をしているのが自慢だったと言う。なにが自慢になるのだろうか。僕が娘だったら、パパはニューヨークで仕事している方が自慢だったと思う。

ゴルフ場で初めてのメンバーさんと一緒にプレーする。最初のハーフが終わり、昼食も終わり後半のハーフぐらいになるとお互い打ち解けてくる。「空博さんはどんなお仕事をされているのですか?」と聞かれ簡単に説明すると、案外「へェーいいですね、私もそんなところに行ってみたい」と言う人も案外多い。”そんなところ” にいる時の僕は大変なのである。ネオン街に吸い寄せられてお酒を飲みに行くこともできないのだから。

砂漠に入るときはいろんな準備をしないといけない。ナミビアカラハリ砂漠では、キャンピングカーを利用した。一つの調査地で1,2週間の調査を終えると僕はホテルのある町に帰り調査で得たデータの分析を勧める。その間に現地スタッフがキャンピングカーとその他の大型機材を次の調査地に移動する。そして僕は町から次の調査地に入る。このような工程で広大な砂漠を渡ったので、このキャンプカーで僕自身が移動したわけではない。

キャンプカーの中は寝室兼オフィスであり、キャンプカーから張り出したタープは僕のレストラン兼ラボラトリーである。

カラハリ砂漠の僕のホテル兼オフィス兼レストラン兼ラボラトリー

タープの中は意外に広い。採取した地下水の同位体分析をするための前処理もできる。
まさに砂漠の中のラボラトリーだ。

僕はこんな仕事しているが、実は虫が大の苦手だ。しかし砂漠には以外と昆虫は多い。一番の恐怖はサソリである。サソリは昆虫ではないが、見た目もその毒性も最も怖い。現地のスタッフも最も恐れている。カラハリ砂漠のサソリは人間も殺せるという。

僕のホテル兼オフィス兼レストラン兼ラボラトリーに出現したサソリ

そのサソリが僕のキャンプカーの中に入ってきた。抜き足、差し足で現地スタッフが寝ているテントに向かい助けを求めた。

やっかいなことにサソリや砂漠に生息する昆虫は夜間に我々の靴の中に侵入することが多い。僕たちは、朝起きてブーツを履くときには靴の踵をトントンと地面に打ち付け、そして直ぐにブーツを逆さまにして中にいる生物を排除しないといけない。朝のこの作業は、いつも僕にとってドキドキであるが、僕は長い砂漠生活でこれはほぼ習慣化していた。

たまに日本に帰り、会社に行くとき、二日酔いでボーッとした頭で玄関で靴の踵をトントンと打ち付けてしまうことがある。幼稚園児だった頃の息子は、よくそれのマネをしていたのを思い出す。

砂漠は僕の大切なお客さんであるとともに、僕に実に沢山の事を教えてくれた。論文も沢山書けた。子供達も興味を持ってくれた。僕(という野菜)をとっても奇妙な形に変えてくれた、大きな大きな環境要因の一つである。