奇妙な形の野菜たち

Literature, photograph, music, guitar, and alcohol (sake, whiskey). What I love and never stop

原子核と電子

僕の仕事は、簡単に言えば「水」を探す仕事である。娘がまだ小さい頃、一緒にお風呂に入るとかならず、「ねえ、パパのお仕事って、砂漠に行って水を見つけて「おーい、ここに水があるよ~!」って砂漠の人に教えてあげることなの?」と聞かれる。娘に僕は仕事の話はしたことが無かったのに。おそらく、息子(兄)か妻から僕の仕事を聞いて、娘なりに解釈した内容なのだろう。面倒くさいから「そうだよ」と答えると、「ふ~ん、すごいねえ、砂漠の人は喜ぶね~」と感心されてしまう。

それはともかく、水の化学式は、皆さんご存じのH2Oである。

水素イオン(原子記号H)は+の電子を1つ持っているイオンで、酸素イオン(原子記号O)は-の電子を2つ持ったイオンだ。化学式というのは、必ず+と-が同じ(足したら0)になるようになるので、水は酸素O1つに対して水素Hが2つ、すなわちH2Oが化学式だ。

僕は中学生の頃、理科の時間で、分子を構成する原子核と電子の関係を習った時、異常に興奮した。原子核の周りを、電子がクルクルと回っている。その関係を教師が黒板に描いた時、これは地球と月、太陽と地球の関係だと思った。地球が原子核で、電子の月はその周りをクルクル回っている。太陽が原子核で、地球がその周りをクルクルと回っている。

ということは、この地球も、何かの物質を構成している分子の一つであり、例えば僕たちからすると天文学的な大きさの動物の足の爪を構成する分子の一つで、その爪先が欠けるか削れるかまでの時間が地球の寿命である。そしてその巨大動物が住む超巨大な惑星は、超々巨大な魚を構成している分子の一つであり、そしてその超々巨大魚が住む惑星も、実は超超々天文学的に大きな昆虫を構成する分子の一つである。

あるいは僕の体を構成している分子。例えば去年僕は健康診断の胃カメラで見つかったポリープを切除した。そのポリープを構成していた一つの分子の一つは、実は高度に発達した生命が生息している惑星なのであった。しかし、地球の様に環境汚染を引き起こしていたその惑星が、僕の胃のポリープの病理だったのだ。

だから宇宙の時間と空間は無限なんだ。大きい方へも、小さい方へも、無限なんだ。

僕は勉強もせずに、そういう事をずっと空想していた。

今日の僕の空想を表す写真は無いので、冒頭の娘の感心「すごいねえ、砂漠の人は喜ぶね~」の写真にした。砂漠の人では無くてスリランカの人だが。

お父さん、僕に手合わせないでください。
実はこれは試験のための井戸で、今、ポンプを入れて地下水の揚水量の試験をしていますが、この試験が終わると水位計を設置して、これから何年も地下水の水位変動を測定するための井戸なのです。

一般的に地下水は平野を構成する堆積物(砂とか砂利とか)の粒子の間に胚胎されるが、スリランカのように岩盤(スリランカの場合は変成岩)地帯では、岩盤に出来た亀裂や破砕部に貯まる地下水を狙う。掘削の方法は、エアーハンマーといって、圧縮空気を使ってハンマーで岩盤を叩き粉々にして掘削する。だから地下水が胚胎する亀裂や破砕部に到達すると、このように水が吹き上がる。沢山のギャラリー(村人)が驚喜する瞬間だ。

僕は一日中井戸掘削工事現場にいるわけではないが、いつ来ても村の子供達は飽きずにずっと工事を見ている。「学校行かなくて良いのかい?」と問いたいほど。掘削が終了してポンプを挿入し地下水を揚水したら子供達は大歓声で水に集まる。 「試験中だから入っちゃ駄目だ、離れなさい」と大声で子供達を叱るスリランカの水資源開発機構のエンジニア氏を「まあ、ちょっとぐらい良いじゃないか」と止めたらこんなことになってしまった。

子供達の次には村の女性陣が集まってくる。彼女たちの笑顔を見ていると、「ごめんね、これ、一週間の試験の後は水位測定のための井戸になっちゃうんだ」と説明するのも辛くなる。